萌芽的研究について


 

 私がかつて文部省の科学委員をしていた時、若い人の新しいアイデアを育てようという議論になり、科学研究費のなかでこの「萌芽的研究」という新しいアイテムが成立した。今も続いている。
 私は原則的に賛成であったが、一つ気に入らない点があった。誰が萌芽的研究というものを評価するか? 老人はどうしても自分のパラダイムの中の仕事でないと評価できない。だから、萌芽的研究を提唱する人たちが30歳代とすると、審査委員を20代としてみたら、どう云うことになるか。先輩のつくるパラダイムについていって発展させようと云うのは、20代であって、決して40代以上の世代ではない。あるいは、通常科学的発展がずいぶん伸びて、20代では研究の最前線に達することが出来ないような老熟した分野なら、30代を審査委員にすることもよいだろう。とにかく。文部省科学研究費もいろいろなアイテムをつくって、何とか最前線を切り開こうとする意欲は見られる。では、若い人に審査を任せるというアイテムもあってもよいのではないか。そして、審査委員の世代ごとの競争をさせてみて、どちらが優れた研究の最前線を切り開く上に貢献したかを見てみたらどうだろう。それも、一年、二年の目先的効果ではなくて、数年、あるいは数十年のスパンで評価するものもあるはずである。